奇跡の灰皿

新入社員のころ、会社の自分の席でもタバコを吸ってもよかった。

だから、自分のデスクの上には灰皿があった。 当然。

だけど毎朝、掃除のおばちゃんが、吸い殻を捨てたりするために
部の灰皿を全部一カ所に集めちゃうのだった。

一見同じ灰皿でも、タバコの挟み具合とかが微妙に違うので、
毎日使いたい灰皿が出てくる。

それは直径10cm、高さ4cmの円筒形で、外側が銀色で
タバコを挟むくぼみが3つあり、内部がモスグリーンの普通の
無機質な灰皿だった。

My灰皿であることを主張するため、その外周に自分の出身大学の
オレンジ色のステッカーを3枚貼り、さらにミッフィちゃんの
立ち姿のシールを、ダメ押しで貼っておいた。
(このミッフィちゃんシールは、たぶん結婚前の妻からもらった)

毎朝出社すると、そのMy灰皿をとって、自分の席に持って行き、
まず一服するのが一日の始まりの儀式だったわけだ。

で、先輩が出社してくると、打ち合わせと称して、外の喫茶店
繰り出し、一時間くらいコーヒーを飲むことが習慣だったなあ。
嗚呼、なんという優雅なサラリーマン生活だったことよ!

ということは、さておき。

実は社内の とあるパーティに出席した際、飲み物スペースの
テーブルの上に そのMy灰皿を発見したのであった。

28年前に貼付けたオレンジ色のシールは年季が入っていたけど、
ちゃんと大学名が読み取れたし、ブルーナうさこちゃんシールも
かわいく健在だった。

その出会いが、もう、なつかしくて、うれしくて。

その感激度合いを周囲の人々に話したら、それは凄いと賞讃され、
勧められるがままにその灰皿を家に持ち帰ったけど、
坊主家は、禁煙一家になっていたのであった。

おお、これは禁煙日記ではないか。