感無量

20年以上も客としてお世話になってきた夫婦の居酒屋が、店をたたむというのでその最後の日に行ってきた。元々肝臓が悪かったご主人が脳梗塞で倒れてから4ヶ月間、集中治療室で入院し続けてきたが、もう手のほどこしようがないということで、その病院を出されることになったらしい。最近の大病院は、手術優先で、ただ入院だけしている患者さんは最長4ヶ月で追い出される仕組みらしい。なんてこったい。

ご主人を、郊外のいわば老人専用のような長期入院可能な病院に移動させるために、女将さんは、ご主人をとるか、お店をとるかの判断を迫られ、当然のごとく前者を選択したのであった。「お店は、また始められる」からだ。

明るく、元気で、気丈な女将が、カウンター内で一人で動き回る。「きょうは私が作れる物しか出さないというか、出せないコース料理だからね」と、次々につまみが目の前に出てくる。ご主人の「料理人」の味ではないが、女将の人柄を感じさせる家庭的な味だ。途中、女将さんの想い出話や、今後の話に目頭を押さえながら、そのへんのボトルキープしてある知人の酒を、片っ端から飲んだ。だって、店閉じちゃうんだから。最近は、ケニヤと二人で訪れることが多く、お店にケニヤの舞台のチラシを貼ってくれたりもしていただけに。。。。

居酒屋の家庭的コース料理の締めは、おにぎり二個と大根の味噌汁だった。 きょうは私たちから今までの感謝の気持ちを込めた奢りだから。落ち着いたら、絶対また店出すからね、と最後まで気丈な女将だった。