実録:第三回湘南国際マラソン 11月16日 その2

片側一車線の国道1号線の全面を使って、怒濤の一方通行の密集状態のまま走り出す。その状態で、少しでも前にいきたい輩が、ひじなどで身体接触しながら、抜きさっていく。あまりにもひどいヤツには、後ろからタックルしてやろうかとラグビー魂の血が騒ぐほどに。
走り始めてすぐ、心拍数をチェック。心拍数を143前後に調整しながら、走る。この心拍数で走り続ければ、1kmを5分40〜50秒のペースのハズなので、安心して走っていると、ほぼ全員のランナーに抜き去られていく状態に気づく。
最初は、「おめーら、調子こいてぶっ飛ばしてるけど、後半抜いてやるから覚悟しておけよ〜」的な感情を抱きながらも、もくもくと心拍数表示を頼りにして走っていたのだった。それにしても、よく抜かれるなーと感心しながらに。雨が上がったのでビニールポンチョを脱ぐ。みんなは脱いだポンチョを道ばたのボランティアの人に手渡しているが、ボクはまた強く降ってきた時のために、腰に付けたポーチのベルトにはさんでおくことにした。
最初の給水ポイントは、4.3km地点。いつもは8kmで給水しているので、ここはパスしてもいいけど、次回以降のために紙コップをつかむ練習をする。ヨコから握りつかむのではなく、上からつまむほうが確実に取れるというノウハウに忠実に。つかんだら素早く雑踏を離れ、落ち着いて走りながら少量ずつ口に含む。うん、練習通りにうまくできた。よし、と。
5km過ぎにコースは134号線に入り、左に曲がると視界が広がる。花水川を越えたら平塚市箱根駅伝の往路では3区と4区の交替地点だ。いつもクルマが渋滞する平塚市内の134号線を、心拍数145前後をキープして走る。
第2給水地点(高浜台交差点7.8km地点)までに、最初のゼリーを少しずつ口に含みながら走り、給水地点の天然水で口に残った味を流し込む、予定通りの補給。よしよし。
そのまま湘南大橋(相模川)を渡ると、ジェットスキーからも旗を振って応援している。橋の上から見える湘南シーサイドカントリー倶楽部の13番グリーンから、キャディさんが「頑張ってぇ〜」と大声出しながら手を振ってくれているので、思わず手を振ってしまった。よくプレイしていたゴルフ場なので、ひょっとしたら、スキンヘッドを見つけて応援してくれたのかも知れないから(笑)
橋を渡って茅ケ崎市に入れば、もういつもの練習コースだ。安心、安心。ところが10km地点の標識とともに設置されているデジタル時計を見て、愕然とする。「1:06」  なんだよ、このタイムは。心拍数はずーっと143〜145でキープしていたはずだ。だったら普段は56分前後、遅くとも60分は切っているハズなのに。。。1時間6分もかかっているとは!
最大の問題点は、今の心拍計に表示されるラップタイムの数字が小さすぎるので、ボクの老眼では判読できないことにある。だから、数字が大きくてみやすい心拍数の表示で自分の走るペースを判断してきたのだった。
ところが、大会に出場すること自体で興奮状態になり、心拍数が普段より高くなることもあるらしいと何かの本で読んだ記憶がある。それが、今回の誤算の要因なのではにないか、と走りながら考えた。すなわち、いつもの心拍数よりも+5〜10くらいの表示をしているとするならば、全てに説明がつく。
しかしながら、いま、ここでバタバタ対応策を考えても仕方がないので、少なくとも20kmまでは、このままのペースで走ろうと判断したのだった。
なんやかや考えて走っているうちに、伝説のサザンライブがあった茅ヶ崎市営野球場脇の第3給水ポイントも過ぎ、真の地元である茅ヶ崎ゴルフ場あたりへ。ようやく沿道で応援してくれている妻を発見!ガッツポーズをしてから、なんとなく腰に巻いていたポンチョを手渡してみた(笑)
だんだん、ランナーとランナーの間が空いてきたので、ちょっと気分的に楽になってきた。(あんまり詰まっていると、自分のペースで走りづらいから)ところどころに設けられた「撮影ポイント」のカメラに向けてのガッツポーズも、ごちゃごちゃした中での一人ではなく、自分中心の一枚、と認識できるようになってきた。以降の撮影ポイントでは、すべてガッツポーズをしてやったので、仕上がりが楽しみだ。
確か、辻堂東海岸のあたりで、早くも折り返してきた先頭集団が白バイ(だったかな?)に先導されてやってきた。招待選手のケニアワイナイナと3〜4人のトップ集団。はっええぇ〜!! ほんとに、一瞬ですれ違い、あっという間に走り去っていった。まあ、ボクの約2倍速いスピードで走っていることが、よ〜くわかる速さだった。
小雨は降ったりやんだり状態が続き、一時激しく降ってきた時は、妻にポンチョを渡したことをちょっと悔やんだが、ま、折り返してすれ違う早い人たちは、誰もポンチョやヤッケを身につけていないので、すぐ諦めがついた。
東京マラソンでは、(CX系列で全国放送されるためか)コスプレ紛いの奇抜な衣装を着て走る人が目立ったらしいが、湘南国際では、完全コスプレ者は、にわとり、デビルマン、お猿さん、旅の三度笠を見かけたくらいだった。それぞれが相当の実力者で、特ににわとりは中盤までトップ集団にいたとのこと。すげー。旅の三度笠は、三度笠や日本刀が走るのに相当邪魔らしく、コスプレ走者の中で、唯一ボクに負けた人となった。
第一折り返し地点で折り返し、割とすぐの鵠沼スケボー場あたりの第5給水ポイントではゼリーの補給をせず、ゲータレードと水を飲んだ。20km地点での時計表示は、確か2時間10分を越えていたと思う。
よ〜し、そろそろ走りのギアを一段階上げてみるか、と心拍数を148前後に持っていく。けど、難なく走れてしまう。ならばもう一段階と、152前後まで上げてみる。これで周囲のランナーとほぼ同じスピードになったように感じる。要するに、むやみに抜かれなくなってきたのである。逆に、前を走るポニーテイルの女性ランナーの後姿を見つけ、ついていけるくらいの走りになったというわけだ。
20km過ぎあたりから、道の両脇のガードレールに手をかけて、足の屈伸運動をしている人が目立ってきた。浜須賀の給水ポイントでは、立ち止まって、水を飲んだり、何かを食べたりしている人が多い。
そこをボクは、ひょいと紙コップをつまんで走り続けながら、水を口にして、かなり先にあるゴミ箱にポイと捨てて走り抜けるのであった。決して止まらずに。うんうん、うさぎとカメみたいだなーと、ちょっと思いながら。
ようやく調子よく走っているうちに、復路の地元付近で妻を発見。ガッツポーズで声援に応える。後から聞いた話だが、往路ではボクの10分以上前に通過した無国籍居酒屋のねえさんが、復路ではボクのすぐ後ろを走っていたらしい。要するに、その12kmの間に10分の時間差を逆転したことになるわけだ。ふふふ。
サザンビーチを過ぎたあたりで、ちょっとした空腹感が襲ってきたので、低血糖状態になる前に、早速エナジーゼリーを口にした。柳島の給水ポイント(約28.3km)では、立ち止まる人が続出。その間を縫うようにして、走り去っていってやった。
高低差のかなりある湘南大橋を過ぎ、平塚市に再び入る。松の防風林にはさまれた134号線の延長上に、富士山の霞んだ影が見えた。134号線の進行方向の正面に富士山が見えるポイントは、マラソンコース上でもそんなに多くはない。(真正面ではない位置で見えるポイントは多いが)茅ヶ崎の一中前から野球場までと、西浜中学から柳島に抜ける一瞬と、平塚のこのポイントだ。
地元以外から参加したランナーには、やっぱり晴れた空の下で、雪化粧した富士山を見ながら走ってもらいたかったなー。江ノ島は見えたけど、茅ヶ崎名物えぼし岩も、何人の人に見てもらえたんだろう?
そんなことを思いながら、心拍数150以上を保ちながら坦々と走り続けていた。道端にアルミフォイルでラッピングされた人(=リタイアして体が冷えないように処置された人)が、ぽつぽつとしゃがみこんでいる。救護班にスプレーを借りて脚に吹き付けている人、シューズとソックスを脱いで途方にくれている人(多分靴ズレ)、屈伸運動を繰り返す人、でも一番多いのは、のろのろとゴールに向かって歩いている人だ。
第9給水(約34.7km)を過ぎてコースは西湘バイパス(有料道路)に入った。134号線よりも路面が荒れているし、カーブでは道路全体が傾いているので走りにくい。でも自動車専用道路を、クルマを止めて人が走るのは、なんとも痛快な気分だった。
右手前方に大磯プリンスが見えてきた37km付近、ゴールに迫る人に対する声援が凄い。よーし、あと5km強をこのままのハイペース(心拍数152前後)で走り抜けるぞ〜とアドレナリンが出てきた。ここでようやくランナーズハイ状態に突入!
西湘二宮インターの第二折り返し地点(約39.2km)を折り返すと最後の給水ポイントだ。ゲータレードをさっとつかみ、飲み干して、立ち止まったり、屈伸運動したり、とぼとぼ歩いている輩の間を走り抜けていく。
ここから大磯プリンスの途中まで、だらだらの長い登り坂になっているのは、このまえクルマで通って確認済み。ほとんどのランナーの足が鈍くなっている。そこをランナーズハイになったボクが大きなストライドでどんどん抜いていくのだ。うひゃ〜気持ちいい〜。
大磯プリンスの敷地の脇にきてギャラリーが多くなった時点で、いつもの仕上げのときのように、ギアをトップに入れて全力で走り出す。面白いように抜ける抜ける。ギャラリーから歓声が沸きあがるのがわかる。「あのハゲのオヤジ、はっええ〜〜!」「いけいけぇ〜!」
わっはっは。もう50人は抜いたか、というところでバイパスから90度左折して大磯プリンスへ向かう小道へ入る。歩道橋の下をくぐりさらに左に曲がるとほんとの急勾配のカーブ道、ここも全力疾走で、どんどん抜いてやったわい。歓声と拍手が起こる! 抜き去ることが気持ちいい〜♪
やっぱりボクはスプリンターなんだなー。
フィニッシュは、(ゴール時の写真がブレないように)やや速度を落として、当然両腕のガッツポーズで! 係りの人がゲータレードの500mlボトルを手渡してくれたので、それをぐびぐび飲む。ゼッケンに付いているICタグを回収していたけど、ボクは心拍計のセンサーを胸に付けている関係で、タグが付いているのは後ろのゼッケン。なので、係りの人に外してもらう。
とかなんとかやっているうちに、まだストップウォッチを止めていないことに気づいた。ありゃまー。そういえばゴールしたとき見たデジタルと計は4時間35分を表示していた(ネットタイムは4時間28分前後のはずだと思うけど)。
まあ、とにかく、ノンストップ(給水ポイントを含む)で完全完走できたことは、かなりの自信になったし、最後の余力を考えると、前半をもう少しペースを上げることができれば、サブフォー(4時間切り)も近い将来、決して手の届かないタイムではないな、と思えてきたのだった。
カラダが冷える前に、シャワーも浴びずに着替えて、第3駐車場に向かう。当日は帰りだけ、第3駐車場から大磯漁港まで観光バスでピストン輸送をしてくれるのだ。駐車場でバスを待っていると、到着したバスから申し訳なさそうに降りてくる人たちがいた。足を引きずったり、お腹を押さえたりしながら、下向き加減で歩いているのは、途中でリタイアし、バスに回収されたランナーだった。ちょっと痛々しかったかな。
実際に走ってみて、沿道の応援が走りのパワーになる、ということはほんとにあるんだなーと、凄く実感。妻をはじめ沿道で応援してくださった皆さんに、感謝しなくっちゃ。
大磯漁港からJR大磯駅までの帰路にも、道案内のボランティアの人の「おつかれさまでした〜気をつけてお帰りください」の声に、「こちらこそお世話になりありがとうございました〜」と素直に言葉がでてきたことが、自分ながらうれしかった。
茅ヶ崎駅に着いたのが、15時過ぎだったので、ああ、地元の大会でよかったなーという気持ちと、ああ、やっぱり三軒茶屋のシアターに向かっても開演の16時には間に合わなかった、と少し安心したのだった。
家に帰り、風呂に入って、夕食をとってから、近所の無国籍居酒屋に顔を出してみた。オーナーが4時間45分、姉さんが4時間55分で、ボクが一番だったんじゃん!でも、フルマラソン走り終わってすぐ店を開けているのって、凄いな〜。それから、もう一軒、ガンバってねといってくれたねえさんのいる居酒屋に無事完走できました、と報告。
ボクのラグビー部の後輩Kも、ボクより10歳以上若いくせに15分は遅かったと思うし、知り合いの中では一番早かったんだー。
まあ、終わってみれば、いろいろな意味で自分にとっての凄いイベントだったんだなーとかなり感慨深いです。
来年以降、参加する際の参考になるように、できるだけ細かく事実を記録しておきたかったので、なんともダラダラな日記になっちゃったことをお許しください。
最後まで読んでくださった方、お疲れ様でした(笑)

<覚え書き>
自測ラップタイム(SUUNTO t3c にて自動測定)
 5km    30分50秒
 10km 1時間02分06秒(31分16秒)
 15km 1時間33分24秒(31分18秒)
 20km 2時間04分23秒(30分59秒)
 25km 2時間34分10秒(29分47秒)
 30km 3時間04分37秒(30分27秒)
 35km 3時間35分47秒(31分10秒)
 40km 4時間06分45秒(30分58秒)
 43km 4時間25分48秒(19分03秒)

正式タイム(主催者発表
 グロス 4:35:12
 ネット 4:30:44
 順位(グロス)4561位/9710(完走総人数)
        実出走人数=10,617人