火葬の日

妻から火葬の日が決まったとのメール。一日でも早い方がいいだろうと思っていたが、明日の11時からだそうだ。金曜だけど、会社を休まねばならない。ん? 同居する家族の葬儀だから、これは忌引きの届けか?  (そんなわけはありません、ハイ)

当日の早朝、いつものように天海とジョギング。道にビスケットかクラッカーがつぶされたような跡がたくさんついている。天海も匂いを嗅ぐけど興味はなさそう。途中、それをカラスがつまんでおり、あ、そうか豆まきの豆だと気づく。

10時過ぎにケニヤの部屋に安置していたライの遺体を毛布にくるみ、写真と、いつも食べていたドッグフードと、花束を用意して、市内の動物愛護の会へ向かう。ここは寺の敷地内にペット用の火葬場があり、引き取りも持ち込みも、また合同葬、単独葬、立会い葬など、どんな対応もしてくれるので、毎日のお散歩仲間たち推薦の場所である。(ネットで検索すれば、火葬車がやってきて家の前で収骨まで完結させるサービスがあり値段も安いが、近所に匂いが漏れるなどで苦情が出たことがあるとの散歩仲間の情報により、却下。)

まず総合受付で、電話で予約した旨を告げる。犬種と体重を尋ねられ、立会い葬である確認をして料金を支払う。骨壺を入れる袋の色を選ぶ(白か赤かだがどっちも金色が入ってケバい)。火葬の流れの、たんたんとした説明を受ける。坊主による読経サービスは無料とのことだが、お断りする。いや、ぼくが坊主だからというわけでなく、常日頃から無宗教的生活をしているわけだし、天国には宗教を持ち込まない方がいいと考えているからだ。一葬儀(立会い葬の場合)あたり2時間かかるらしい。持ち込みのサービスとして、スティックコーヒー6本パックをもらう。(香典返しみたいな、こんなもんいらんわい) 火葬している間の飲み物用に、一人80円渡される。(たしかに待合室の自販機の飲み物は一律80円だったケド)なんだかなー。

早速、火葬場にライの遺体を運ぶ。小さな祭壇があり、そこに今日持ち込んだ写真を飾る(置いただけ、だな)。祭壇の手前の台に、ライを置く。係の人が「ここで火葬の前に5分間のお別れをしてください」と言い残して勝手にいなくなる。おいおい、もうお別れは十分したからいいですと、追いかけるが見失う。しょーがないから、いろいろ、そのへんの器具をいじったりしてみる。

係の人が神妙な顔をして再登場。そろそろお時間がまいりました。。。っていうか、もうアナタを待ってたんですから。焼き場は並列して二つあり、そのうちの一つの扉を開ける。滑車台を持ってきて中から耐熱材でできた焼き台を引っ張り出す。ここに置いてくださいと。右側を下にするライの好きだった寝方で置いいてみる。口のそばに、今日持ってきたドッグフードと、好きだった季節の果物として苺を、背中部分に花束を置く。くるんできた毛布も燃やせるということで手前に乗せておく。

よろしいでしょうか、の声に、はいお願いしますと。釜の中に台ごと押し込まれるライに向かって、じゃ天国にいってらっしゃーい、と小さく手を振った。係の人がボタンを押すと、焼き場の扉が上から「ウイィ〜ン」と閉じた。無宗教だから、両手を合わせて祈ることなく見送った。でてきた言葉は、やっぱり「ありがとう」だった。

焼き上がるまで約一時間。とりあえず寺の境内を散策してみた。おーけっこう広く、高台に墓地がずらりと広がっている。高台のてっぺんに立って見下ろすと寒川方面に視界は開ける。とそのとき、火葬場の煙突からちょっと黒っぽい煙がゆらいでいるのが見えた。お、あれがライのけむりかな、と妻と話してみた。

思えばライは酒好きだった。最初はビール党で、缶ビールを開ける「プシュッ」という音を聞くと飛んできたものだった。それをグラスに注いだのを差し出すと、細い口先をグラスに押し込んで眼を細めながら、ほんとにおいしそうに「んぐんぐ」と飲んでいた。グラスを無理矢理遠ざけないと、いつまでも飲んでいた。そして、ちゃんと?酔っぱらい、千鳥足になるのが笑いを誘ったものだった。それではと、いろんな酒を飲ませてみたが、洋酒より日本酒党になったのだった。ま、10才くらいの何かの時に血液検査したら医者から肝機能がちょっと弱っていると言われたので、それから禁酒にしたけど。こっちが勝手に酒の味を覚えさせておいて、それをまた強制的に取り上げちゃって、ごめんな。あー、おコツになる前に、口に日本酒を塗ってやればよかったかなーと、ちらと思ってみた。

待合室に入って、そこに置いてある本に「子犬ガイドブック」を見つけ、おいおい燃やしてる最中に次の子犬の検討かよ、突っ込みを入れる。「子犬のしつけ方」という本もある。亡くなった犬に対する躾を反省せよというのだろうか? まあ、ちゃんと「ペットロスについて」という本もあったので、許してやる。ははは。

一時間強たって係の人が呼びにくる。そーいえば彼の黒いユニフォームはKENZOブランドだった。再度焼き場に行くと、すでにステンレスの可動台の上に白骨が移されていた。骨壺に入れるにも順番があるらしい。最初はお二人で箸でつまんで入れてください、と大腿部の骨から。あとは妻と交互に。肩甲骨、背骨、ときて、頭蓋骨は箸じゃなくて手で持って。顎。もう歯が6本くらいしか残っていなかったので、恐竜の骨のミニチュア版みたいだった。細かい骨は、机上用のほうきとチリトリで集めて壷の中へ。ふたをして周囲をセロファンテープでとめる。それを最初に選んだ赤い袋(坊主家愛犬雷電之霊位という札が貼ってある)に入れて儀式はおしまい。

大型犬の骨が、骨壺に全部入らない時はどうするのか、とか、焼く前にお別れをする時とか骨を拾う時とかで何か印象に残った(おもしろい)ことをやった人はいませんでしたか、とか、いろいろ聞いておけばよかったなと後から思ったくらいで、まあ、淡々と感情の起伏もなく、やらねばならないこととしてやり終えた感あり。

お世話になりましたと受付であいさつすると、ご自宅で供養してあげてくださいと言われて動物愛護の会を後にした。腹が減ったので、途中イタメシ屋に入ってピザを注文。ピザ焼き釜を見て、おお、焼き場と同じような構造だな、と思ったりした。

家に帰ってしばらくすると、近所のお散歩友達(石垣島からきたちゅらちゃんのママ)が涙をうかべて花束を届けてくれた。うれしかった。